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大阪高等裁判所 昭和48年(く)75号 決定 1973年11月20日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の趣旨及び理由は弁護人岡田忠典作成の抗告申立書及び抗告申立理由補充書記載のとおりであるから、これらを引用するが、その要旨は原裁判所の被告人に対する勾留決定は違法、不当であるからその取消を求める、というのである。

よって一件記録を精査するに、被告人張壮治は強姦被告事件により昭和四八年三月二二日起訴され、審理を経た後、同年一〇月四日午後一時大阪地方裁判所第六刑事部で懲役二年六月の実刑の判決が言渡されたこと、右宣告に先立だち、同日午前一二時頃被告人に対する勾留状が同裁判所より検察庁に送付せられ、右宣告直後の午後一時一五分頃被告人は勾留状により勾留執行さされたが、右勾留状には前記強姦被告事件の公訴事実の要旨及び刑事訴訟法六〇条一項三号の理由が記載されていることが認められる。

所論は判決言渡前に勾留決定がなされ、その執行のため検察庁に連絡したことは、検察庁に裁判所が「被告人を実刑にする」旨の予告をしたことになり、いわば判決の言渡前における判決内容の外部への告知にほかならない、また判決言渡前に勾留を決定されたのであるから、客観的に刑事訴訟法六〇条に該当する事由が全くない、仮にあったとしても、同法六一条の手続がされ、被告人及び弁護人に防禦の機会を与えるべきであるのにこれがされていないというのであるが、勾留の決定は判決の内容を明らかにするものではなく、判決宣告前に勾留状が検察庁に送付されたとしても、判決内容の外部への告知とはいえない。仮に判決宣告前の右の決定が「被告人を実刑にする」ことを予想させるものであるとしても、勾留決定そのものの違法を来すものではない。また勾留の理由と必要があれば判決宣告前でも勾留決定をすることができるのであり、本件は、後記認定のように、原裁判所が被告人に判決言渡後逃亡のおそれありと認めて執行の確保のため勾留決定したものであるから、なんら違法ではない。さらに同法六一条の手続については、本案の審理において、本件公訴事実について被告人に陳述の機会を与えられている(同法二九一条)のであるから、改めて被告人の陳述をきく必要はなく同法六一条の手続は必要でない。元来弁護人には同法六一条の手続にさいし、立会う権利が与えられているものではなく、勾留通知をうける権利(刑事訴訟規則七九条)及び抗告する権利等が保障せられているのであるから、本件において被告人及び弁護人に防禦の機会が与えられていないとはいえない。原決定が違法であるとする所論はいずれも理由がない。

所論はさらに、被告人には逃亡のおそれがないから、原裁判所の決定は不当であるというのであるが、勾留は罪証隠滅を防止し、公判の審判のための身柄の確保の外、刑の執行の確保をも目的とするものであるから、本件強姦被告事件の犯罪事実の内容及びその重大性、罪質、被告人が本件につき懲役二年六月の実刑の言渡をうけたこと、被告人の前科前歴その他諸般の情状を考慮すると、原裁判所が右判決言渡後、被告人が逃亡するおそれがあると認めて、その判決言渡前に勾留決定したことは相当であって、所論は理由がない(なお被告人は即日保釈を許可されているものであり、控訴権行使を心理的に著しく圧迫しているという非難は当らない)。

してみると、本件抗告はいずれも理由がないから、刑事訴訟法四二六条一項により棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 本間末吉 裁判官 西田篤行 栄枝清一郎)

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